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福岡高等裁判所 昭和31年(ラ)35号 決定

抗告人 八尋ヱイ

訴訟代理人 水崎幸蔵

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人の抗告理由は別紙抗告人の提出した抗告状の抗告理由欄記載のとおりである。

抗告代理人は、昭和二十九年二月十日債務者の一人である未成年者八尋寿美の先代八尋寿一郎が妻フサノと寿美の親権者を養父寿一郎と定め協議離婚をしたので、爾来寿美は同人のみの親権に服してきたが、右養父(且つ実父)が同年十一月四日死亡したので、同人に親権を行うものはなくなつた。もつとも前記寿一郎は前記フサノと離婚後寿美の実母である抗告人ヱイと婚姻したため、寿美は寿一郎、ヱイの嫡出子たる身分を取得したが養父母との間に依然養親子関係が存在する以上抗告人ヱイは寿一郎との婚姻により当然寿美の親権を取得するものではないから、ヱイを寿美の親権者として本件強制競売の開始決定竝びに競売期日の通知をしたのは違法であり、本件競落許可決定は取消を免れないと主張するのであるが、

論旨は結局、実親と養親とが婚姻した場合に子に対する親権は養親一人が行うか、或は養親と実親とが共同して行使するのかの問題に帰するのであるが、民法第八百十八条第二項は子が実父母以外の者と養子縁組をするもつとも普通の場合に、実父母よりも養親に親権を行使させる方が当事者の意思にも人情にも合致するものとして定められたものであるから、実親と養親とが婚姻してその夫婦の許で養育している場合に養親があるからというて、実親の親権を認めず、養親のみに親権を行使させるのは親子間の人情に反するばかりでなく子の利益の保護を全うする所以でない。だから、この場合は民法第八百十八条第三項に則つて養親、実親の共同行使を認むるものと解するのが相当である。したがつて、右婚姻により一旦回復した実母の親権は爾後養父が死亡し(且つ離婚した養母が生存していると否とを問わず)たからといつて消滅するものではない。実母たる抗告人が親権者でないことを前提とする抗告人の主張は理由がない。

よつて、抗告費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

抗告の理由

一、抗告人は本件競売申立め基本たる債務の債務者兼本件競売の目的たる物件の所有者として利害関係を有するものである。

二、本件不動産競売申立には債務者の一人未成年者八尋寿美を表示するに当り「債務者八尋寿美右法定代理人親権者母八尋ヱイ」と表示し之に基き競売開始決定にも同様の表示が為され爾来該決定正本其他競売期日通知等は総て八尋ヱイに送達されて居る。

三、しかし右八尋寿美は昭和十一年八月十一日山本ヱイの婚姻外の子として出生し昭和十三年一月二十二日父八尋寿一郎に於て認知届出を為したものであるが昭和二十四年二月二十一日八尋寿一郎同人妻フサノと養子縁組届出を為し爾来右養父母の親権に服するに至つた為め山本ヱイの親権より離脱したものである。其後昭和二十九年二月十日八尋寿一郎は妻フサノと協議離婚を為し親権者を父寿一郎と定めたので爾来同人の親権に服するに至つたが寿一郎は昭和二十九年十一月四日死亡したので茲に同人の親権も消滅するに至つた。斯様な経緯で寿美には父寿一郎死亡以後親権を行うものなきに至つたものである、尤も寿一郎はフサノと離婚後昭和二十九年二月十日(フサノ離婚と同日)寿美の実母であるヱイの嫡出子たる身分を取得したが養父寿一郎養母フサノとの間には依然養親子関係が存するのでヱイは寿一郎との右婚姻に依り当然寿美の親権を取得するものではない。

四、叙上の如く八尋ヱイは寿美の親権者でなく従つて何等法定代理権がないので本件競売手続は強制競売開始決定並に競売期日を債務者寿美に適法に送達されて居ない違法があるに拘らず前掲競落許可決定が為されたのは違法と信ずる。

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